
「行政書士と宅建士ってどう違うの?」
「試験はどちらが難しい?稼げるのはどっち?」
行政書士と宅建士の資格は、比較されることが何かと多いです。
それはおそらく、両資格とも国家資格の中では比較的取得しやすいにも関わらず、どちらも資格を取るメリットが大きいから、という理由があると思います。
実際、試験の内容やその仕事内容はかなり異なるのですが、ダブルライセンスの場合メリットを生かせることもあり、資格同士の親和性は高めです。
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僕は都内で行政書士事務所を経営している、開業4年目の現役行政書士です。
今回この記事では、現役行政書士の僕の視点から、行政書士と宅建士それぞれの比較や、ダブルライセンスのメリット等を深堀して解説していきます。
<以下の項目に当てはまれば、あなたにとってこの記事は参考になります>
●行政書士と宅建士でどちらの試験を受けようか迷っている、もしくは両方の受験を検討している
●既に行政書士か宅建士の資格を保有しており、もう一つの資格取得を検討している
●行政書士と宅建士の違いが知りたい
行政書士の通信講座に興味のある方は、以下の記事をご覧ください。

Contents
行政書士と宅建士の違い
それでは、まず初めに行政書士と宅建士はそれぞれどのような職業なのかを見ていきます。
行政書士とは
【行政書士】
行政書士は、行政書士法に基づく国家資格者です。
行政書士は、他人の依頼を受けて報酬を得て、役所に提出する許認可等の申請書類の作成と提出手続代理、遺言書等の権利義務、事実証明と契約書の作成を行います。
要するに行政書士とは、「お客様に代わって役所(警察署、消防署、県庁など)に許認可の申請をする、許認可申請のプロ」です。
また、権利義務・事実証明に関する書類の作成も行います。
権利義務・事実証明に関する書類とは、例えば、各種契約書や示談書となどの書類を指します。
そして行政書士は、各契約書や示談書などといった書類を作成し、報酬をもらうことができます。
<行政書士の仕事の例>
●建設業許可申請の代行
●自動車登録手続きの代行
●外国人の在留資格(ビザ)の申請代行
宅建士(宅地建物取引士)とは
【宅建士(宅地建物取引士)】
宅建士は、宅地建物取引業に基づく国家資格者です。
重要事項説明書の説明・交付や、書面への記名押印を行います。
また、契約書類への記名押印を行います。
宅建士が具体的に何をするかというと、宅地や建物を買ったり借りようとする人に、その現状や所有者などが記載されている書類(重要事項説明書)の内容を説明し、記名押印します。
他に、売買代金などをまとめた書類に記名・押印します。
上記の仕事は、宅建士の資格を持っている者が行わなければなりません。
また、宅地建物取引業者(不動産屋)は、その規模ごとに一定数の宅建士を事務所に配置しなければならないとされています。
<宅建士が活躍できる場面>
●部屋を借りる際
●住宅の買い替え時
●相続等での土地の売却時
宅建士の試験難易度比較

それでは次に、行政書士と宅建士の資格試験の難易度を、合格率を参考に見ていきましょう。
行政書士の試験難易度
先にネタバレしてしまうと、行政書士試験の方が宅建試験よりも難しいです。
それでは以下、その詳細を行政書士試験の直近5年の合格率の推移から見ていきましょう。
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
平成27年度 | 44,366 | 5,820 | 13.12 % |
平成28年度 | 41,053 | 4,084 | 9.95 % |
平成29年度 | 40,449 | 6,360 | 15.7 % |
平成30年度 | 39,105 | 4,968 | 12.7 % |
令和元年度 | 39,821 | 4,571 | 11.5% |
上のように合格率の推移を直近5年で見ていきますと、ここ最近はほとんどの年で合格率10%を超えており、直近5年の平均合格率は12.5%になります。
平成27年以前は、逆にほとんどの年で合格率10%を割り込んでいたので、行政書士試験は年々易化していると言えます。
ただし、いくら合格率が上昇しているとはいえ、法律系資格の登竜門ともいえる国家資格ですので決して簡単ではなく、難易度はかなり高いです。
法律初学者にとっては言うまでもなく相当難易度が高い試験ですし、法律を勉強されている方でも、試験対策を無しでの合格は限りなく難しいといえます。
また、行政書士試験に合格するまでの平均的な勉強時間は500時間~700時間といわれています。
この平均的な勉強時間は、以下で紹介する宅建合格までの平均勉強時間と比べてもかなり多くなります。
その点からもやはり行政書士試験の方が宅建より難しいと言えるでしょう。
宅建士の試験難易度
それでは、以下に過去5年分の宅建の合格率の推移を見ていきます。
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
平成27年度 | 194,926 | 30,028 | 15.40% |
平成28年度 | 198,463 | 30,589 | 15.41% |
平成29年度 | 209,354 | 32,644 | 15.59% |
平成30年度 | 213,993 | 33,360 | 15.59% |
令和元年度 | 220,797 | 37,481 | 17.0% |
宅建の合格率を見ていくと、直近5年の平均合格率は15.79%で、行政書士の平均合格率12.5%よりも高い数字です。
また、宅建は行政書士試験と違い記述式の試験がありませんので、その点も宅建の合格率を押し上げている要因であると思います。
しかし、やはり宅建の試験も立派な国家試験になりますので、簡単に合格できる試験ではありません。
行政書士試験と比べるとまだ易しいですが、しっかり勉強して対策を施さないと、本試験でシバかれる可能性が高いです。
宅建の勉強時間は、200時間~350時間といわれています。
勉強経験の有無など個人差がありますので、このように勉強時間に差が出てしまうものと思われます。
宅建では不動産業に従事している等のある一定の基準を満たした者については、5点免除される等、行政書士試験とは異なった制度もあります。
行政書士試験と宅建士の試験科目比較
ここで少し、行政書士試験と宅建士の試験科目を比較していきたいと思います。
行政書士 | 宅建士 |
基礎法学、憲法、民法、行政法、商法、一般知識(政治・経済・社会等) | 宅建業法、民法、法令上の制限、税・その他 |
行政書士と宅建士の試験科目を上記のように比べてみると、民法だけ重複しているのが分かります。
行政書士と宅建のダブル受験を考えている方にとっては、民法以外の科目はそれぞれ最初から勉強しなければならないので、中々ハードになると思います。
行政書士と宅建士の年収比較

それでは、行政書士と宅建士の年収をそれぞれ見ていこうと思います。
行政書士の年収
行政書士の年収は、平均で600万円程といわれています。
ただし、行政書士の平均年収は実際、一部の年収が高い人たちが押し上げており、年収が500万円以下の人達が約8割もいるそうです。
行政書士は多くの人が資格取得後独立をするので、優秀な人の収入は青天井ですし、センスややる気のない人の収入は伸び悩みます。
このような理由から、行政書士の平均年収を一概に言うのは難しいですが、要は行政書士として開業した場合、やればやるだけ稼げるという事です。
平均年収の600万円という数字ですが、この数字は独立開業している行政書士の平均収入なので、雇われ行政書士の年収は250万円~400万円程度だと思われます。
以下の記事では、行政書士として独立した僕の年収の推移を紹介していますので、興味のある方はご覧ください。

宅建士の年収
宅建士の年収は、地域や年齢によって差はありますが、平均500万円といわれています。
ただ、この数字は行政書士のそれとは違い、不動産屋に雇用されている人の平均収入になります。
このように、行政書士の資格は独立開業で活躍できる資格に対し、宅建士の資格は取得後企業で活躍できる資格である、というのが2者の大きな違いです。
もちろん、宅建士を持っている方であれば、一人で不動産屋を開業することも可能であり、その場合は収入も行政書士と同じく青天井になります。
どちらかというと資格取得後も企業に属して安定的に稼ぎたい、という方は宅建士の資格の方が向いていると思います。
行政書士と宅建士のダブルラインセンスのメリット

それではここで、行政書士と宅建士の資格を両方持つ、ダブルライセンスのメリットについてみていきます。
独立開業するにも、就職するにも有利になる
行政書士の資格と宅建士の資格では、それぞれメリットが異なります。
行政書士の資格は独立開業で活躍できる資格に対し、宅建士の資格は取得後企業で活躍できる資格です。
もちろん、行政書士の有資格者でも、行政書士事務所に就職する人はいますし、宅建士でも資格取得後すぐに独立される方はいます。
しかし一般的には、「行政書士→独立開業」「宅建士→企業で活躍」という図式になります。
もしあなたが行政書士と宅建士の資格を両方持っていると、この両者の異なるメリットを享受することができます。
行政書士として開業するも良し、宅建士として不動産会社に就職するも良しです。
行政書士として開業してみて仮に失敗することになっても、宅建士として再就職も可能ですし、宅建士として働き定年を迎えた後、第二のキャリアを行政書士として形成するという事もできます。
ダブルライセンスは、あなたの可能性の幅を広げてくれます。
行政書士と宅建士の強みを生かして営業していく
ダブルライセンスを持っていれば、それぞれの資格の強みを生かして営業することができます。
例えば、不動産屋として飲食店や風俗業のオーナーなどに物件を紹介し、その後行政書士として飲食店や風俗業の開業の許認可の取得を代行したりする場合です。
実際に上記のような方法で営業されている方はいるらしく、両者で相当な利益が上がっているそうです。
また、行政書士としてビザ取得代行をした外国人に対し、外国人フレンドリーな物件を紹介するというビジネスも考えられると思います。
行政書士と宅建士の強みをそれぞれ生かした営業を上手く展開できれば、大きく成功できるかもしれません。
行政書士と宅建士のダブル受験は可能か

たまに、宅建試験と行政書士試験を同じ年に受験して合格したという強者がいますが、実際にそのダブル受験は可能なのでしょうか。
僕が思うに、ダブル受験で合格するのは不可能ではありませんが、相当難しいと思います。
ダブル受験が難しいと思う理由の一つに、それぞれの試験日が1ヵ月しか変わらないという事があります。
行政書士試験日:毎年11月の第2日曜日
宅建試験日:毎年10月の第3日曜日
宅建試験が終わってから間もなく行政書士試験が始まってしまうので、行政書士試験への十分な対策を講じることができないまま、試験日を迎える可能性があります。
また、上で紹介した通り、行政書士試験と宅建試験の科目は民法以外重複していません。
それぞれの試験科目においての関連性はほとんどありませんので、それぞれの科目を個別に対策していくのはかなり時間がかかると思われます。
こういった理由から、あなたに行政書士や宅建の勉強経験があり、相当自信のある場合を除いて、個人的にダブル受験はオススメしません。
もしあなたがどちらの資格試験を受けようか迷っているのであれば、まずは難易度が低い宅建から受験して、試験勉強のコツを掴んでから行政書士試験にチャレンジすることをオススメします。
まとめ
今回の記事では、行政書士と宅建士を色々な角度から比較していきましたが、行政書士と宅建士についてそれぞれ理解は深まりましたか?
最後に、この記事の概要を箇条書きでまとめたのでご覧ください。
<この記事のまとめ>
●行政書士試験の方が難易度は高い
●試験科目は民法だけ重複している
●行政書士は独立開業で、宅建は企業で活躍しやすい資格
●ダブルラインセンスは、両者の強みを生かして営業ができるのでメリットが多い
●ダブル受験は、受験経験者で相当自信のある場合でないとオススメできない